前回は、そもそも日本社会は直接金融が主流であり、クラウドファンディングのような資金調達手法に注目が集まるのは当然の動きだということを紹介しました。今回は、現在の日本社会の中でクラウドファンディングがどのようなポジションを占めているのか解説していきます。
クラウドファンディング市場は成長途上
矢野経済研究所の調査によると、国内のクラウドファンディング市場規模は2015年度約362億円と推計されています。2012年度の市場規模が約70億円から、この3年間で5倍以上にまで拡大しました2016年度には約478億円にまで成長すると見込まれています。
一方、その内訳を見てみると、88.7%がソーシャルレンディングと言われる貸付型、購入型が9%、投資型が1.9%。寄付型が0.4%と歪つな構成になっています。国際的にはソーシャルレンディングはクラウドファンディングの一種と位置づけられていますが、日本型のソーシャルレンディングは借り手の顔が見えない形であることが多く、すべてを市場規模の母数に組み込むのは疑問が残るところです。
第5回で紹介した株式投資型クラウドファンディングのFUNDINNOでは今年に入ってから投資案件が複数成立していますので、今後は投資型の規模が大きくなっていくかもしれません。いずれにせよ、ソーシャルレンディングを除いた規模は2015年度で40億円余りと、まだまだ規模としては小さく、成長途上の市場と言えます。
じわじわと広がるクラウドファンディングのニーズ
総務省がとりまとめた平成28年版情報通信白書では、クラウドファンディングに関する意識調査結果も収録されています。この調査結果によると、クラウドファンディングの存在の認知度は5割、利用実績がある・利用したいと考えているのは2割程度となっています。20代・30代では、認知度は6割を超え、利用ニーズも3割程度にまで上がります。
第8回では、クラウドファンディングが持つマイクロファイナンスとしての側面を紹介しました。
金融機関を通じた間接金融ではカバーしきれない少額案件や、信用力の乏しい若手起業家等に対する資金供給方法として、クラウドファンディングが占めるポジションは大きくなっています。
金融機関側でも、常陽銀行のようにクラウドファンディングの取組状況を融資審査の指標のひとつとして採用するところが現れてきています。間接金融の隙間、デメリットを埋めるような形でクラウドファンディングが日本社会に浸透しつつあると言えるのではないでしょうか。
日本型のクラウドファンディング文化を再構築
直接金融への回帰としてクラウドファンディングが再浸透しつつあるところですが、アメリカのようなクラウドファンディングを利用・多額の資金を集めて急成長・IPO・巨額の創業者利益というケースは極少数におさまるものと考えます。
明治期から戦前にかけての直接金融社会の中でも、アメリカンドリームのような起業は少なく、どちらかと言うと地に足着いた起業・地域のニーズを吸い上げた公益的な起業が目立ちます。どちらかと言うと株式を地方証券取引所で単独公開している企業に近いかもしれません。そもそも、多額の資金を必要とするところに対しては銀行で資金供給できていたので、ごく小規模な企業の運転資金やスタートアップ時の資金需要を直接金融で補っていたのではないでしょうか。そのように考えると、現代の日本社会の中で根付きつつあるマイクロファイナンス的なクラウドファンディング、スタートアップに特化したクラウドファンディングは日本の伝統に沿った利用形態と言えます。
先ほど、株式投資型クラウドファンディングのFUNDINNOで投資案件が複数成立していると書きましたが、これも資金募集額は500万円から2,000万円と新株発行金額としては比較的少額です。ある程度の規模にまで育った企業であれば、金融機関からの借り入れでも調達できる額です。一方、クラウドファンディングを利用することにとって、多くの人に自社の事業に関心を持ってもらうことができるのと、良くも悪くも出資者を分散できるという側面もあります。どちらかというと、資金を得るというよりも、自社の関係者を増やす・周囲を巻き込むことが主目的と言えるかもしれません。
これからクラウドファンディングは資金調達手法としてポピュラーなものになっていくものと予想しますが、アメリカ的な形態ではなく、マイクロファイナンス特化型と周囲を巻き込むことを主目的とした投資型に軸足を置いた成長を遂げていくのではないでしょうか。日本のクラウドファンディングの歴史を紐解いてみても、そのような形に落ち着くのが自然な気がします。
情報通信技術の発達とともにクラウドファンディングという手法が再注目を浴びているのも、日本社会の伝統である直接金融への回帰を現しているのかもしれません。
記事制作/ミハルリサーチ 水野春市
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